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成人鼠経ヘルニア ~日帰り手術から入院治療まで~

鼠径ヘルニアはどんな病気?
鼠径ヘルニアは一般に「脱腸」と呼ばれる良性の病気です。成人の鼠径ヘルニアは、加齢とともの下腹部の組織が弱くなり、その部分に腸など内臓が張り出してくる状態です。また若い方でも、力仕事などおなかに力を入れることが多い方は鼠径ヘルニアになりやすい傾向にあります。立っていると出てきて、横になると引っ込んでしまうようなふくらみの多くは鼠径ヘルニアが疑われます。
鼠経ヘルニア
鼠径ヘルニアは、最初は下腹部の小さな張り出しですが、月日がたつと大きくなって、ときに陰嚢の方まで腫れてくることがあります。小さいうちは無症状でも、大きくなるにつれて、痛みや不快感が増して日常生活に支障がでるようになります。また、まれではありますが、「嵌頓(かんとん)」と言って、腸が出たまま戻らなくなってしまうことがあります。強い痛みを伴うことが多く、ときに緊急手術で腸の切除をしなければならなくなることもあります。

鼠径ヘルニアのCT画像です。これは横になっている人の断面画像(わかりやすく言うと輪切り)です。この画像では、恥骨の右側が膨らんでいます。膨らみの内容は腸です。
鼠経ヘルニア
もう一つCT画像を見てみましょう。これは別の角度の断面像です。立っている人を正面から見ていると考えてください。右の鼠径部に腸が張り出しています。この症例は腸がはまりこんでいたので、腸閉塞(ちょうへいそく)の状態になっていました。こうなるとその手前の小腸や胃はパンパンに張って腹痛や嘔吐を引き起こします。これが「嵌頓(かんとん)」という状態です。
鼠経ヘルニア
鼠径ヘルニアの治療は?
鼠径ヘルニアを治すには、弱くなっている腹壁の修復が必須であるため、手術以外に根本的な治療法はありません。現在鼠径ヘルニア手術は、人工物であるメッシュを使用して壁の補強を行うのが主流です。代表的な手術は、鼠径部の皮膚を3~5㎝程度切開して、メッシュをおく「鼠径法」と、鼠径部以外のところに1㎝以下の創を3か所あけて内視鏡でメッシュを腹壁におく「腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術」があります。

当院の鼠径ヘルニア手術の特徴
当院では「鼠径法」で手術を行っています。従来、鼠径法の手術の多くは脊椎麻酔(腰椎麻酔)で行われています。脊椎麻酔手術の後は、下半身が半日ほど動かなくなるため、ベッドの上で翌朝まで安静にしていなければなりません。手術日はほぼ絶食となるため、点滴も必要です。麻酔の作用で、排尿ができなくなるため尿道カテーテルの挿入も必須です。術後は頭痛などの副作用がでることもあります。一方、近年普及してきた腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は、創が小さいというメリットがありますが、心臓や肺に病気がある方やご高齢の方には負担の大きい全身麻酔が不可欠な手術であります。
当院の鼠径ヘルニア手術は、局所麻酔を主体としながら、静脈麻酔、マスク麻酔などを併用したバランス麻酔を行うことによって、術後数時間で帰宅することも可能です。食事は手術直前の1食は抜きますが、術後は普通に食事をとり、トイレに自分で行くことができます。日頃飲んでいるお薬の大半は継続して飲むことができます。最近では、抗凝固薬(血液サラサラのお薬)を飲んでいる方も多く、手術のために中断することは脳梗塞など血栓症のリスクを伴います。局所麻酔手術では、原則1種類であれば継続したまま手術が可能です。
当院は病床完備されており、日帰り手術では、一日入院の形で病棟のベッドを使用しますので、ゆったりと過ごしていただけます。また、術後は一日、二日、入院でゆっくり過ごしたいと言う方のご希望に沿うことも可能です。現在は、術後一泊して翌朝退院を希望される方が最も多いです。